Les Yeux Ouverts

〜TとYの冒険譚〜 (サタンのタンゴ 〜くらいよに どこからともなく きこえてくるよ〜 改め)

月夜の散歩道

新しく住み始めた街では、秋のはじまりのこの季節、土日ともなると毎週のように何かイベントごとがあるらしく、昼に、夜に、地図も持たずでたらめに歩いてみると、路地を曲がったその先で、ずらりと物を売る人たちが並んでいたり、もくもく煙を上げながらメルゲーズを焼いている人がいたり、手作りのゼッケンをつけた自転車競争をしているグループがあったり、文化施設を案内してくれる人が待っていたり、人違いをする人がいたり、見ず知らずの人にも笑顔でボンジュールと話しかけるおじさんがいたり、散歩をしているいろんな種類の犬がいたり、子供たちが駆け回っていたり、あちこちのカフェやバーではミュージシャン達が演奏していたり、ぱっと開けた視界の中にエッフェル塔が案外と近くに見えたり、壁に開いた穴をのぞけば木々の茂った庭があったり、無秩序で、坂もあり、建物もでこぼこで、小道がからみあったような街全体がのんびりしていて、にこやかで、そこにあるもの全部が、ようこそと言ってくれているようだった。気になるバーを通りかかったときには、本当にようこそ!と言ってくれた人もいたのだけれど、こちらも気を抜いて手ぶらで出てしまったために、そこへ入っていくことができなかった。それにしても、街灯の光にぼんやりうかぶ石畳の道と小さなバーと生演奏の組み合わせは、あまりに幻想的で、そこだけ時空が違って見えた。また地元の人たちでにぎわうはずの次の日曜日には、どこかの街角で乾いた楽器の音を聴いていられたら幸せだろうと思う。